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技術系テクニカルアーティストのあれこれ

ゆるい管理職。

 入社して間もない年上の部下に「こんなに "ゆるい" のにちゃんとチームとしてまとめることができてるのがすごい」と褒めてもらうことがあった。曰く、彼自身が過去に管理職を担当していたときはもっと強権的だったこともあり、これほどの "ゆるい" マネジメントは想定外だったとのこと。

 もちろん社交辞令は多分に含まれているのだろうけど、"ゆるい" ということに関しては似たようなことを言われることがこれまでに何度かあった。とはいえ部下から直接言われたのは初めてでうまくリアクションできなかったから、次からはきちんと答えられるように言語化しておく。

ゆるい

 そもそも「ゆるい」ってどういうことだろう。思い当たる節はいくつもあるから、自覚している範囲内で適当に挙げてみる。

 弊社の勤務体系はフレックスタイム制なので、コアタイムの概念がある。コアタイム開始後に出社すれば「遅刻」だし、終了前に退社すれば「早退」で、勤怠記録にもしっかり残る。遅刻や早退が発生した際には必要に応じて時間単位有休で埋めることも案内されていて、つまり会社から社員に対して、「綺麗な勤怠」を保つことが期待されている。が、自分はそれをすべて無視していて、「遅刻早退それ自体を理由に評価を落とすことはないから好きにしてくれ」と部下全員に宣言済み*1

 あと、おそらく他の管理職に比べてとてもよく笑うし、とてもよく喋る。いわゆる「へらへらした」状態でいる時間が長い。先に挙げた「遅刻早退」に関して、「それが原因で "周囲に迷惑をかけたら" 減点する」ということも併せて宣言している一方で、少なくとも自分の管理下にある会議では一切気にしない。全員揃うまでの時間を自分が繋ぐ、雑談しながらのんびり待つ*2。会議自体を雑談で始めることはとても多いし、時間が余ればやっぱりどうでもいいことをいつも話してる。1on1 もそう。よく言われる「雑談 "も" 大切」を真正面から実行していて、そもそも真面目な話で時間を埋める気がない。

 部下にミスを指摘される。すぐ謝る。ツッコミをもらって、自分の意見を取り下げる。そんなのは日常茶飯事。

 そもそも口振りが軽い。いわゆる「ソ音接客」*3を全方位展開な上に、声のトーンもよく上下する*4

 身だしなみもあまり整ってない。最近のお気に入りは深緑のワークパンツに、黒いタンクトップと七分袖の赤いTシャツ。あと LIFE IS GOOD の Not Working From Anywhere。襟付きは夏のポロシャツまで。

 とまぁ、たしかに我ながらゆるいとは思う。でもこれ自体は、自分なりに無理のない範囲でいろんな Tips を積み上げていったら結果的にこうなったというだけの話なので、個々の要素には当然意味があるけど、その総体としての "ゆるさ" にはあまり意味が無い。と思う。

管理職

 じゃあ「管理職」の役割ってなんだ。いろんな人がいろんなこと言ってるけど、基本的にはディレクションとリーディングだと思ってる。とはいえ自分の立場はミドルマネジメントなので、基本的には、上から降ってきたオーダーを自分ら向けに分解・再解釈した上での話ではある。

ディレクション

 ディレクションは「正解」を決めること。上から降ってきたオーダーをどうすれば達成できるのか。そのためにすべきことは何か。自部門の粒度に照らして、何をどうするのが正解なのかを決める。

 たとえば絶賛炎上中のタイトルの火消しをオーダーされたとする。「火消し」ってのは何を以てそう呼ぶことができるのか。火をどこまで小さくすべきなのか、完全な鎮火が必要なのか。火を消したあとに原状復帰すべきなのか、燃えカスのままでいいのか。

 地図を持ってても目的地が分からないと進めない。えらいひとたちはおおよその目的地付近までしか教えてくれないから、まずそこを確定するのがディレクション。だと思う。

リーディング

 リーディングは「経路」を決めること。決まった目的地に対して現在地を確認して、両者の間をマッピングする。どの経路を選ぶと何が起きるのか。自分たちにとって歩きやすい道はどれなのかを探る。

 とあるタイトルの工数を一定以下まで圧縮するとする。ボトルネックはどこにあるのか。それはどうすれば解消できるのか。解消するために必要なメンバーは誰か。そのメンバーに与えるべき指示は何か。必要な期間と工数はどの程度か。メンバーが疲弊したらどのようにフォローすべきか。それらを全部ひっくるめて、目的地に向かうための「経路」として整理する。

 この作業を「マネジメント」と呼ぶことも多いけど、実際にはディレクションとリーディングが多層的にいくつも積み重なってる。自分より上のリーディングによって決まった経路を分解して、自分が目指すべき目的地をマイルストーンに設定する。そのマイルストーンに向かうための経路を定めて、自分より下のレイヤーに渡す。

ゆるい管理職

 自分はジョブグレード相当の妥当な評価は恒常的に得ているので、おそらくここでいうディレクションとリーディングが及第点程度*5にはできているのだと思う。その前提で整理する。

 例えば自分は、「勤怠が綺麗に整ったお行儀の良いチーム」をそもそも目指していない。それぞれが個々の成果を挙げた上で、自分がそれを言語化して上級管理職に渡すことができればそれでいい。それを正解と定めている以上、その経路上に「遅刻早退をしないこと」を設定する理由がない。ゆるいというよりも、最初から期待してないという表現のほうが実態に適う。だから定時を守ってもいいし、守らなくてもいい。もちろんそれを守らなかったことで周囲に迷惑をかけたとなれば話は別。

 よく笑いよく喋るのは、自分が必要とする意思疎通の手段としてそれが楽だから。それを受け入れてくれるメンバーを選んでる。実際に採用面接で気にするのも、まず自分と真正面から話せるかどうか、自分と真正面から話せるメンバーと滞りなく意思疎通できるかどうか。今の自分らはまず何よりチームとして稼働することが必要な座組だから、互いの意思疎通が壊れると話にならない。自分にとって一番楽なかたちでそれを実現するための手段を重ねていて、気が付けば「へらへらする」機会が増えてた。雑談が多い理由も、シンプルに必要だから。今の座組は互いの人となりが分かってるほうがよく稼働できるかたちになってる。メンバーが朝会に遅刻して隙間時間ができても、そうではないメンバーとの意思疎通を強化する機会が意図せず増えたとしか思ってない。

 部下にミスを指摘されてすぐ謝るのは、ミスが許容される場が欲しいから。上司が自分のミスを認めないような環境だと、部下は萎縮するだけでしょう。あと何より「正しさ」を優先したい。だから自分も、部下のミスは真正面から指摘する。メンバー間で議論が起きたら自分もそれに参加するし、何ならメンバーを煽って議論を吹かす。その中でまたミスや誤認が指摘されることもあるけど、まぁ場数が多いほうが成功も増えて失敗は目立ちにくいでしょう。健全な議論は自分にとって「正しい」こと。その「正しさ」が崩れることのほうが、ミスを指摘されることなんかよりもずっと大きく、自分のプライドが傷付く。もちろん公然と指摘されれば多少なりとも傷付くけど、それはもうただのトレードオフ。損得勘定でしかない。

 口振りが軽いのは、単なるコミュニケーション Tips の実践であるという以上の意味はない。

 身だしなみは、自分が求める意思疎通のためには権威的なものが邪魔になりやすいってのはあるけど、これはまぁ趣味か。現時点でデメリットを感じてないから、特に補正する気もない。

我儘

 というわけで、たぶん自分あんまりゆるくない。自分らにとって妥当と思われる経路を自分のために選び続けてたら結果的にゆるく見えるようになったのかもしれないけど、個人的には、そこは別にどうでもいい。どっちかっていうと、ゆるさよりも自分の我儘さが前面に出てるんじゃないかと思う。そもそもうちの朝会とか、たまにガチめの議論が発生して修羅の国みたくなってるしな……。楽しいけど。

*1:もちろんこれが会社全体のお作法ではないことも宣言している。

*2:もちろん限度はある。長くても10分まで。

*3:音階の "ソ" を意識して声のトーンを地声より高くする。軽い印象でよく届く声になる、らしい。

*4:発声に感情が乗りやすくなって共感を誘いやすい。

*5:自分の上司が自分に対して持っている期待値に見合う程度。